SCSKのニアショア制度に手を上げ、鹿児島県で働く馬門さん(中央下)ら

SCSKのニアショア制度に手を上げ、鹿児島県で働く馬門さん(中央下)ら

企業の働き方改革は、最も重要な経営資源である従業員をどう生かすかが大きなポイントとなる。大規模な企業から先行して柔軟に働く仕組みを整えており、そのことによって女性やシニアの力を引き出そうとしている。

アサヒグループホールディングス(HD)は働く時間を巡る改革のひとつとして、出社しなければならないコアタイムをなくした「スーパーフレックス制度」の導入を進めてきた。

 

大石彩帆さんは、訪問先が会社から遠いときや病院に寄りたいときなど、週に1度のペースで利用している。大石さんは「出産した先輩たちが制度を利用して活躍している姿は、自分の将来のキャリアの励みになる」と話す。

男性や若手の社員も当たり前のようにスーパーフレックス制度を使っているという。幅広い従業員が自ら時間をやり繰りしながら仕事の生産性を上げようとしている。

働く場所についてもアサヒグループは画一的なあり方を改め、転勤のない地域限定正社員を取り入れてきた。工場勤務者などを中心に、2018年は1065人が地域限定の正社員として働いた。

転勤を経験する人は日本で年間60万人にのぼる。事情によっては離職せざるを得ないケースもあり、地域限定社員の制度は従業員にとっても企業にとってもプラスとなる。

システム開発SCSKは、柔軟な働き方として独自の工夫をこらす。地方拠点に大都市の仕事を回す「ニアショア戦略」を強化している。東京や大阪などの仕事を振り向けることで、実家の近くにいながら、以前いた拠点と同じような作業ができる。地方での介護などでUターンやIターンを希望する従業員に出向先を用意している。

 

こうした仕組みで人材を活用できる余地は広がる。2018年1月、妻の実家がある鹿児島県の職場に出向した馬門浩一さんは「この制度がなかったら、親の介護のために退職していたかもしれない」と語る。SCSKは2年後には社員の1割超を地方に置く考えだ。

同社は残業削減と有給休暇の取得を目標とする「スマートワーク・チャレンジ」を実施している。それぞれの部署がみずから業務を効率化させ、削減できた残業代を社員に還元する仕組みで成果を生んだ。10年度の月平均の残業時間は約27時間あったが、2018年度は2017時間41分に減った。

人材活用力を高めていくうえで、女性の働きやすい環境づくりは今後の大きな焦点となる。厚生労働省によると、働く女性は19年に初めて3000万人を超えたが、環境が整っているとは言えない。

東京海上HDは全社員がテレワークを使える制度を運営している。育児しながらでも働きやすいことなどから、出産した女性社員の大多数が、離職せずに産休や育休から職場復帰できているという。

女性の2018年度の営業担当者は約1900人となり、10年間で16倍に増えている。2019年9月には女性の活躍を後押しするため、国内グループ会社の女性社員を対象とする講座を新設した。70人が半年にわたって外部講師からリーダーシップやデザイン思考などについて計6回学ぶ。

今回のスマートワーク経営調査で、2018年度末の時点で1人でも社外取締役に女性がいる企業の割合は42.4%だった。一方で、社内の取締役では12.1%にすぎない。仕事も家庭も大事にしたい女性の意欲を引き出す施策を充実させなければ、人材確保はおぼつかない。

 

ダイバーシティー経営という点では、性的少数者LGBT)に配慮した職場環境の改善が企業に広がりつつある。

NTTデータLGBTの人々の活動を支援する人をさす「アライ」のメンバー制度を導入している。現在300人近くいる。当事者を呼ぶセミナーなどを通じて正しく理解し、ストラップやシールを提示して支持を表明する。当事者を傷つける行動を見たら声をかけるなどして働きやすい職場に改善する。

働き方改革関連法では19年4月から、有給休暇が年10日以上ある労働者について、そのうち5日間の取得を企業に義務付けた。調査対象となった企業では、18年度の有休取得率の平均が61.4%だった。

 

調査では、従業員や組織のパフォーマンス向上のために導入している技術を聞いた。最も多く導入されていたのはテレビ会議システムで、78.4%の割合だった。自宅やサテライトオフィスなど、社外で働く人が増えるにつれ一層欠かせなくなる。

次いで50%台となった施策が3つある。ひとつがパソコンやスマートフォンで文字をやりとりするビジネスチャットツール。もうひとつは、ネット上にデータを保存して外出先からでも見られるようにするクラウドストレージだ。すきま時間に仕事をこなせる手段となり、生産性を上げたい企業が次々導入した。

さらにデジタルレイバーと呼ばれるソフトウエア「RPA」(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入した企業も55.1%あった。伝票や契約書の処理のような定型業務を自動化する。

大和証券グループ本社は18年、RPAを浸透させるため、各部署に「RPA担当者」を配置した。IT(情報技術)部門に設けた「RPAデスク」と連携し、それぞれの部署から集まった事例などをもとにシステムを改良している。

証券営業の事務手続きといった社内の問い合わせへの対応には、人工知能(AI)による自動応答システムを導入するなど業務を改善している。会話のようなやりとりをコンピューターにまかせる仕組みはチャットボットと呼び、一般に広告などで使われ始めた。

幅広い産業で人手不足となっているため、RPAやチャットボットの活躍の場は広い。一方で、ブームで導入してみたものの十分使いこなせない事例も出てきている。生産性を上げられるかどうか、導入後の工夫が鍵になりそうだ。

組織のパフォーマンスを高めるため、企業が最新テクノロジーを取り入れる場面が増えている。そのひとつが採用だ。

コニカミノルタは新卒採用でビッグデータ分析の技術を取り入れている。人事部に専門チームをつくり、過去10年ほどのデータを分析している。具体的には適性検査の結果を分析し、同社社員や新卒の応募者を6つのタイプに分類する。

活躍している社員と同じタイプの人の採用を増やすことを意識し、面接の質問を変えたり、選考日程を優先的に決めたりした。担当者の勘に頼っていた採用を「見える化」し、合否判断にかかる時間が13%短縮したほか、1次選考の辞退者が24%減ったという。

企業が人材活用力を高めていく上でできることは多い。たとえばモバイルPCの正社員への配布率をみると、平均は51.3%となっている。90%以上に配布していると答えた会社は19%に満たない。IT活用を進められる余地は大きい。