Financial Times

アドリア海に面するイタリアの少都市ペスカーラでは3週間前に、若いゲイの男性が再建手術が必要なほど顔面を殴打されるという事件が起きた。その事件に抗議し、LGBT(性的少数者)の権利を求める小集会が、人通りの多い海岸沿いの地区で開かれていた。

他の欧州諸国に比べて、イタリアではLGBTの人々への風当たりが強い=ロイター

他の欧州諸国に比べて、イタリアではLGBTの人々への風当たりが強い=ロイター

社会の意識、英仏など欧州諸国に後れ

同集会に参加していたロレンツォと名乗る男性は「あんなことが起きた後では、LGBTの人々は皆、安心して街を歩けないと感じている」と話した。彼が抱えている虹色のトートバッグは先月、ペスカーラでは初のゲイ・パレードが開催された時に買い求めたものだという。「いつまた襲撃があってもおかしくない。皆が恐怖におびえている」と話すロレンツォは、自身の年齢を33歳だと教えてくれたものの、名字は公表しないでほしいと付け加えた。

6月の暴行事件の詳細についてはまだ調査中だが、新聞記事によると25歳の男性が同性の恋人と歩いていたところ7人のグループに襲撃されたという。あまりにひどく殴られたため顎の骨が砕け再建手術が必要になった。犯人のうち1人の身元が明らかになったが、ロレンツォはいまだに恐怖を拭えないと語った。「この街はどっぷりと偏見につかっている」

フランスや英国など他の欧州諸国に比べ、イタリアはLGBTの人々に対する処遇の平等性という面で後れを取っている。人種や宗教による差別から生じた犯罪を罰する法律はあるものの、性的指向や性別、自分の認識する性別の「性自認」などに基づいた差別の犠牲者を保護する法律は存在しない。

7月末には国会に反差別法の修正案が提出される見込みだ。法案は、女性や同性愛、トランスジェンダー(出生時の性と自身の認識する性が一致しない人)に対する差別の存在を公にすると共に、LGBTの権利保護をめぐってイタリアの世論を二分する論争になっている。

権利保護へ立ち上がる中道左派

反差別法の修正を主張する中道左派の国会議員アレッサンドロ・ジャン氏は、イタリアは早急に欧州諸国と足並みをそろえて全ての市民の権利を守る必要があると訴えた。

「同性愛への嫌悪感は、隠されてはいるがイタリア中にまん延している。それは、ゲイやレスビアン、トランスジェンダーの人たちがカミングアウトしようとすると決まって表に出てくるものだ」とジャン氏は述べた。

連立政権の一角をなす中道左派「民主党」のモニカ・チリナ上院議員は、他の西側諸国がとっくに認めているLGBTの権利についていまだに論争しているのは、イタリア社会に深く保守的な考え方が染み込んでいるためだと批判した。

「イタリアは性的な多様性を受け入れようとしない。社会に深く根付いた家父長的でカトリック的な価値観に基づく文化のおかげで型どおりの仕分けしかできないからだ。固定概念から逸脱した人は、恐れられたり遠ざけられたりする。今こそ、こうした考えを変えていく時だ」とチリナ氏は指摘する。

2019年9月に公表された世論調査ユーロバロメーターによると、イタリアのLGBTに対する受容度は欧州平均よりはるかに低いことが明らかになった。スウェーデンでは90%、オランダでは93%の国民がゲイやレスビアン、バイセクシュアルの人々が選挙によって最高の公職に就くことに違和感を感じないとしているのに対し、イタリアでそう答えた国民は55%にすぎなかった。

保守派や宗教勢力は「断固反対」

LGBTの権利問題は、変革を起こそうとする与党民主党とそれに反対する保守派や宗教勢力との争いに複雑に絡んでいる。野党・極右政党「同盟」を率いるサルビーニ元副首相や「イタリアの同胞」を率いるジョルジャ・メローニ下院議員は反差別法の修正やLGBTの権利拡大に断固反対の姿勢を取っているほか、同国の政治に大きな影響力をもつ強力な宗教活動団体やカトリックの司祭も同様に反対している。

「イタリアには差別はない。もし同性愛者または異性愛者が袋だたきに遭ったり差別に遭ったりすれば、加害者はどちらも監獄行きとなるわけで、結果に違いはないのだ」とサルビーニ氏は今月、記者会見で発言した。「もし差別があるというのなら、異性愛に対する嫌悪を禁じる法律も作らなければならないはずだ」

「生活と家族」という保守的な組織を率いて、反差別法の修正に反対して支持者を動員しているヤコポ・コーゲ氏は「なぜ、ある一部の人たちだけに平等を保障しなければならないのか。理解し難い。反差別法に性別や性的指向の項目を書き加えることは、その他の人々を差別することになる」と述べた。

もし同法案が通れば、これまで25年間法制化を主張してきた左派のLGBT権利擁護派にとっては歴史的な快挙となる。

By Davide Dhiglione

(2020年7月18~19日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/)

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