2019年4月の東京レインボープライドに参加するアウトフォースのメンバー(セールスフォース・ドットコム提供)

2019年4月の東京レインボープライドに参加するアウトフォースのメンバー(セールスフォース・ドットコム提供)

毎年10月11日は国際カミングアウトデー。カミングアウトはLGBTQ(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クエスチョニングの頭文字をとったもの)が自身のセクシュアリティーを公言するという意味で使われ、LGBT活動団体が多数生まれるきっかけとなった、1987年のワシントンマーチの記念日でもある。この日には性的少数派への差別や偏見をなくす目的で世界各国でイベントが開催される。

国内でLGBTQへの理解を高めるのに力を入れているのが、米ネットサービス大手のセールスフォース・ドットコムの日本法人(東京・千代田)だ。同社には「Outforce(アウトフォース)」という社員発の社内コミュニティーがあり、LGBTQ当事者と、アライと呼ぶ理解者ら約400人がメンバーとして参加。アウトフォースには経営に反映しようと役員も参加するのが特徴で、LGBTQへの理解が深まれば、それ以外の人たちにとっても働きやすい職場につながる、という期待もある。

レズビアンであることをカミングアウトし、アウトフォースのリーダーとして活躍する人事部門の岡林薫さんとアライの一人、森田青志専務執行役員に話を聞いた。

――アウトフォースはどんな活動をしているのですか。

LGBTQの採用イベントでアウトフォースメンバーとして活動する岡林さん

LGBTQの採用イベントでアウトフォースメンバーとして活動する岡林さん

岡林さん(以下、岡林) アウトフォースは社内SNS(交流サイト)を通じてメンバーとLGBTQ関連のニュースや知識などを共有している。外部講師を招いた社内イベントも定期的に開いており、新型コロナウイルスの感染拡大後も約2カ月に1回の頻度でオンライン会合を開いている。2019年からはカミングアウトデーに近い平日にメンバー以外の社員に向けた理解促進の啓発イベントを開く。メンバーが知識をどのように広めたのかなどを調べ、コミュニティーの外への影響を常に意識している。アウトフォースは役職や年齢問わずフラットな関係で運営されているのが特徴だ。

――LGBTQ当事者がカミングアウトする意義はなんでしょうか。

岡林 他のLGBTQ当事者に安心感を与えられ、周囲にLGBTQが身近だと感じてもらえることに意義を感じる。当事者がカミングアウトせず見えないからといって、その職場にいないわけではない。当事者とアライの存在が見える企業はカミングアウトを選ばない人にも安心感をもたらして、働きやすさにつながりやすい。アウトフォースの発信を通じて、セールスフォースで働くことを選択する人も出てきた。

性的多数派ならば、あえて自分のセクシュアリティーを告白しなくてもいい。LGBTQは言わないと環境が変わらないのが現状だ。もちろん、自分のセクシュアリティーをオープンにしたくない人もいる。人それぞれの個性や違いとして、LGBTQが当たり前に受け止められる社会こそ、本当の差別や偏見がなく、当事者と性的多数派が同じように権利を持った社会といえるのではないだろうか。

――カミングアウトしやすい社会をつくるにはどうすればいいのでしょうか。

岡林 社会にアライを増やすことが第一歩だ。アライへの一歩を踏み出す際に、大事にしてほしいのが相手への敬意。知らなかったり、わからなかったりするだけで悪意はないことを言葉にして伝えることだ。

――性的多数派にとってLGBTQへの理解を深めるメリットは何ですか?

岡林 LGBTQのコミュニティー理解が進み、平等への意識が高まることは、性別、性的志向、人種、障がいなど多様な人材を受け入れる会社づくりにつながる。結果的には社員が安心して仕事に取り組める環境となり、生産性が向上。長期的には企業の成長にも貢献すると思う。

――森田さんがアライになったきっかけを教えてください。

アウトフォースの活動に参加する森田青志さん(奥中央)

アウトフォースの活動に参加する森田青志さん(奥中央)

森田さん(以下、森田) 私は19年4月に開催されたLGBTQのパレード、東京レインボープライドに参加して初めて性的少数派に興味を持った。私自身がそうだったように、そうしたアライの芽を育てることが重要だ。気軽に出入りできる社内コミュニティーがあることはその一助だと思う。業務上のコミュニケーションの円滑化につながり、相乗効果もある。

――アウトフォースに参加して感じることは。

森田 LGBTQと聞くと「自分には理解できない」「わからないから傷つけてしまう」と身構えてしまいがち。ただ、私自身はアウトフォースに役員職としての参加を通して、LGBTQ当事者への知見が得られる楽しさがあった。ポジティブな感覚がアライへの道に通じると感じている。

アライという当事者の外側の人間だからこそ、LGBTQについての発見や発信がしやすい。当事者じゃないからこその発見や自分への気づきを外側に発信している。講演などでなくとも、気負わずに社内外でのコミュニケーションなど日常の一部のふとした瞬間の何気ない発信でもいい。発信もLGBTQ当事者を支援する手段の一つだ。

■国内でのカミングアウトの実態

 厚生労働省が2020年5月に公表した「職場におけるダイバーシティ推進事業 報告書」によると、職場の誰か一人にでもカミングアウトしている性的少数派の割合は、LGB合わせてわずか7.3%。カミングアウトしない理由としては「職場の人と接しづらくなると思ったから」がLGBで32.1%、トランスジェンダーが32.9%と人間関係を挙げる人が目立つ。
 職場では休憩時間や食事中などに恋愛や結婚などの話題になることは日常的にあるが、性的少数派は差別や偏見を恐れて自分自身のことを打ち明けられずにいる。その一方で、黙っていることで周囲にうそをついているという苦悩にも直面するため、カミングアウトしやすい環境を求める動きにつながっている。

(生活情報部 田中早紀)