LGBTの就活生向けの合同採用イベント(2019年3月、東京・渋谷で)

LGBTの就活生向けの合同採用イベント(2019年3月、東京・渋谷で)

LGBT(性的少数者)の従業員に対する社内ルール作りが注目されている。社会的にも対応が進む。LGBTが働きやすい環境を、企業はどう作るべきか。企業にLGBT対応を助言するNPO法人「虹色ダイバーシティ」の村木真紀代表に聞いた。

むらき・まき 社会保険労務士。京都大学総合人間学部卒業。大手製造企業などを経て、2012年虹色ダイバーシティを設立、代表に。13年から認定NPO法人。企業にLGBT対応を助言する事業や、企業や自治体などでの講演、調査研究を手掛ける

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むらき・まき 社会保険労務士。京都大学総合人間学部卒業。大手製造企業などを経て、2012年虹色ダイバーシティを設立、代表に。13年から認定NPO法人。企業にLGBT対応を助言する事業や、企業や自治体などでの講演、調査研究を手掛ける

LGBTはレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字をとった略称だ。調査によって異なるが、日本でも3~10%程度の人が自分をLGBTと認識しているとされる。LGBTへの対応はかつてはグローバル企業などに限られたが、人材や価値観の多様化、人手不足が叫ばれる中で多くの企業にとって対応が急務となっている。東京都渋谷区がLGBTのカップルを公認する「パートナーシップ制度」を2015年に開始し、厚生労働省も初の実態調査を今年公表するなど、社会的関心も高まっている。

■中小企業で対応進まず

――日本企業はこれまで、どうLGBTに向き合ってきたのでしょうか。

「かつては海外企業を買収した会社や、外資系などに限られ、LGBTに対応していた企業は少なかった。13年ごろは、大手企業でもLGBT対応にピンとこない人が多く、数万人の従業員を抱える会社の人事部長に『うちの会社に、そんな人いるの?』と言われたほど。カミングアウトして働く人は少なかった。変化があったのは、15年。渋谷区がパートナーシップ制度を始めて大きな話題となり、会社や行政の動きが活発になった。当事者も声を上げ始めるようになり、大きな流れになった。それまで先進的な企業に限られていたが、その取り組みが少しずつ広がっていった」

――LGBT対応の重要性は増しています。

「企業の競争力向上のためにこそ、取り組むべきだ。ただでさえ労働力人口は減っているうえ、人材の多様化は新しい商品やサービスの開発にもつながる。同性パートナーシップ制度が広がり、レズビアンやゲイのカップルが、家の購入や結婚、子育てなど将来像を描けるようになっている。結婚式や旅行、住宅などのニーズが生じたとき、需要をつかめるのはLGBTに対し、信頼を積み重ねてきた企業だけだろう」

――一方、厚生労働省の調査では、LGBTに対応している企業は11%にとどまり、特に従業員99人以下の会社では4%と、対応が進んでいません。

「規模の大小を問わず、対応しなければならない。人手不足に悩んでいる中小企業ほど、取り組むべきではないか。採用で不利になっている可能性があり、当事者がいやになって会社を辞めているケースもある。我々が実施したアンケート調査でも、7割のLGBT当事者が『会社に何の施策もない』と回答している。報道は頻繁にされるようになったが、身の回りの状況は変わっていない、という人が多いのではないか」

――企業はまず、何から取り組むべきでしょうか。

「会社としてどういう姿勢をとるのか、というLGBTに対する基本方針を定めるべきだ。当事者のモチベーションに影響するのは、ハラスメント、差別的言動の有無だ。ハラスメントがあるとカミングアウトできず、人間関係が悪くなる。ハラスメントを防ぐことが大切だ。経営者はLGBTについて学び直し、企業文化を変える必要がある。会社のトップが社員にメッセージを発信しなければならない」

――一度方針を定めても、実態が伴わない企業もあります。

「本気で現状を変える意志があるかどうかが重要だ。うまくいっている会社は、熱心に何度もメッセージを出している。『PDCA(計画、実行、評価、改善)』をしっかり回す必要がある。LGBTはそんなにマイノリティーではない。当事者から声が上がってこないのは、言える状況でないことを示す。声が上がる状況に改善すべきだ。効果があるのは、当事者の声を聞いてもらうこと。理解だけでなく、身近な存在だと感じてもらい、共感してもらわないと、行動は変わらない」

■無意識な男女分けに注意

――当事者の声や要望が吸い上げられず、適切な対応がわからないという声もあります。

「海外では、従業員グループが重要な役割を果たしている。(LGBTを支援することを示す)『アライ』が、LGBTと定期的に話し合う場を設けている。当事者グループをつくるのはハードルが高いと思う日本企業が多いが、安全性に配慮しながら声を集める仕組み作りはできるはずだ」

「無意識な男女分けに気をつけなければならない。受付が制服を着ている女性だけということに何も感じない会社は、いろいろなところで無神経であるケースが多い。男性だけが独身寮、女性だけが借り上げマンション、というケースもある。今まで当たり前でも、そもそもなぜこうなっているのか、問い直す姿勢が必要だ。接客で奥様、旦那様という呼びかけ方に違和感を覚える人もいるのではないか。現場でひっかかることをひとつひとつ潰していく必要がある。ある企業は、社員の座席表を男女別に色分けして表示していた。制度などハード面の整備も大切だが、できるだけ早く、従業員の声を吸い上げる仕組みが必要だ。従業員グループやアンケートなど、様々な現場の声を吸い上げて改善し続けなければならない」

――採用活動で注意すべきことはありますか。

「気をつけるべきことは、3つある。まず、障壁になりそうなことをなくす。性別記載欄や、スーツでの面接などだ。ふたつめは、採用活動に関わる人が、しっかりと社内のLGBT施策を認識、説明できる環境の整備だ。最後は、求職者に、きちんと情報提供すること。ダイバーシティー(多様性)施策や働き方改革への言及は増えているが、LGBTへの施策もパンフレットなどに書いておいてほしい。それで学生は判断できる。決してLGBTをひいきするわけではなく、不利に扱うことがないようにするのが大切だ」

――新型コロナウイルスの感染拡大で、どのような影響が出ていますか。

「LGBTの研修は業務に直結しないとして、中止や延期になりがちだ。LGBT施策は、ビジネスにとってプラスになる。人材の損失を防ぐし、顧客に性的な点で失礼な対応をしないようにもなる。業務に直結している、と認識してほしい。後回しでよい話ではない」

(聞き手は大阪経済部 岩戸寿)